上田 恭介(東北大学 大学院工学研究科 材料システム工学専攻)
世界的な高齢化の進行に伴い、骨や歯などの硬組織疾患が増加している。硬組織は運動機能や食生活の基盤を支える重要な組織であり、その健康は生活の質(QOL)や健康寿命に直結する。本研究で開発した溶解性制御型生体活性ガラスコーティングは、チタンインプラントに骨形成能と抗菌性を同時に付与できる新しい表面処理技術である。これにより、術後感染リスクの低減と早期の骨結合促進が期待される。今後は、Cu以外の抗菌性元素の探索や、生体活性ガラス組成の最適化を通じて、より長期的かつ安全な抗菌効果の実現を目指す。また、細胞応答や生体内溶解挙動を精密に制御することで、患者の骨質や年齢に応じたパーソナライズド・インプラント表面設計へと発展させていきたい。骨と直接結合するチタンの優れた特性をさらに高め、感染リスクを低減することで、「より長く安全に使えるインプラント」の実現を目指している。材料設計と表面処理の工夫によって、生体が本来有する再生力を引き出すことができれば、医療現場のみならず、人々の生活の質そのものを支える技術になると信じている。
南本 大穂(神戸大学 大学院工学研究科 応用化学専攻)
近年のエネルギー問題の深刻化を踏まえ、事実上無尽蔵な光エネルギーを電気あるいは化学的有価値物質へ高効率に変換する技術への期待が高まっています。とりわけ、太陽光スペクトルの半分以上を占める可視光を外部摂動として活用する変換システムの確立は喫緊の課題です。この目的に向け、半導体を光変換材料とする多様な取り組みが活発化している一方、化学的に安定な多くの半導体は大きなバンドギャップゆえに応答が紫外域に偏るという材料起因の制約を抱え、可視域までの応答拡張に資する設計指針と実装技術の確立が求められています。こうした課題に対し、貴金属をナノ構造化した際に入射光と共鳴して自由電子が集団振動する局在表面プラズモン共鳴を利用するアプローチが提案され、半導体とプラズモニック構造からなるハイブリッド系が相次いで報告されています。しかし、当該系の電荷移動の詳細な機構が未解明であり、かつ作製プロセスが限定的で展開性に乏しいことが応用上のボトルネックでした。本研究では、半導体―プラズモニック複合系に対して光電気化学測定を適用し、反応を実際に駆動する励起種の化学ポテンシャルの絶対値を含む電荷移動過程を実験的に明確化することに成功しました。さらには、可視光応答を示す半導体―プラズモニック構造複合膜を新規の溶液プロセスにより高い再現性で作製し、低温・大面積・低環境負荷という実装上の利点を併せて実証しました。今後は、得られた機構的知見とプロセス技術を基盤に材料選択と界面設計を最適化し、可視光を有効活用する次世代の光電変換・光化学変換システムの構築と高機能化を推進していきます。
鳴瀧 彩絵(東京科学大学 総合研究院 生体材料工学研究所)
「自己組織化」は、物質が特定の環境下で自発的に秩序構造を形成する現象を指し、タンパク質の立体構造形成に代表される分子レベルのスケールから、銀河系の形成といった宇宙のスケールまで、自然界に普遍的に見られます。私は特に、ナノメートル領域における分子や粒子の自己組織化の理解とその材料応用に興味を持って研究を進めています。自己組織化によるものづくりは、省エネルギーで秩序立った構造を生み出せる点で魅力的ですが、熱ゆらぎにより構造が多分散になりやすいという課題があります。そこで当研究グループでは、自己組織化現象の理解にもとづく構造単分散性の向上と、構造ゆらぎが許容される適切なアプリケーションの開拓の両面から研究に取り組んでいます。本講演ではシリカナノ粒子が両親媒性高分子の存在下で示す自己組織化現象の理解に焦点を当ててお話します。
武藤 浩行(豊橋技術科学大学 総合教育院)
セラミック材料の作製には古くから、粉末冶金法が多用されています。粉末を成形し、焼結して固化させる極めてシンプルな手法ですが、その歴史は長く、膨大な研究成果の蓄積により、安価、かつ高品質な多くの優れた製品が生み出されています。しかしながら、その基本には、粉末の取り扱いに関して多くのノウハウが含まれており、極めて経験的なモノづくり手法であるとも言えます。我々は、特殊な装置を用いることなく、原料粉末を高度に集積化する技術を新たに開発し、これらの集積粉末を用いることで、既存の粉末冶金法をさらに深化させるための手法を提案しています。当該手法を用いることで、これまで単純に粉末を混合して作製していた複合材料において単純な分散構造だけでなく、ナノ領域からマクロ領域までのマルチスケールで組織制御した新たなセラミックス素材を開発することが可能となります。既存の粉末冶金法では創製することのできない新たな材料開発を目指して、材料分野の発展に貢献したいと思っています。
黒澤 俊介(東京大学 大学院工学系研究科附属ナノシステム集積センター)
機能性材料の研究は、「入力」したものをいかに有益な形として「出力」できるか、つまり「関数」を見つける・見出す作業であり、個人的には大変面白いと感じております。その中でも、放射線のエネルギーを「入力」として、おおむね可視光領域の光子として「出力」される「シンチレータ」は放射線検出器として利用されており、私の研究は、この材料の開発になります。具体的には、エネルギー効率が良い出力や応用用途に適合した波長や時間応答のための新規材料開発や、またその材料を合成する方法の研究になります。加えて、その「出力値」を産業的に利用できるような放射線検出器開発や、「出力値」を分析するための装置開発も行っております。その例として、がん治療に関連する医療機器や、福島第一原子力発電所の廃炉に関連する検出器やそのシステムを構築しています。材料は社会活動の基盤であり、無限に近い「関数」が見いだせます。その中で、要求されている分野で本当に使える「材料」を求めることが、われわれには求められおります。今回、採択されました皆様におかれましても、素敵な「関数」を見出せるよう祈念申し上げます。
<事務局より>
今回、各講師にお願いして、研究テーマの今後への熱い思いを書いて頂きました。レジュメ、講演に加えて、本日ご参加の皆様と各講師との意見交換・交流のきっかけになればと願っています。
|